わたしの手帳

日々の思うことや触れたものの感想など、雑多に書きます。鬱病と闘っているので、そのことも書いていきたいです。

『さがしもの』 同じ本と何度でも出会う

私の愛読書のひとつに、角田光代さんの『さがしもの』があります。

『さがしもの』には、9つの短編小説が収録されています。角川文庫であるこの本は、単行本から文庫化されるにあたってタイトルが変わりました。変更前のタイトルは『この本が、世界に存在することに』。

この本に出会えたこと、この本が私の世界に存在することをありがたく思います。

 

収録されているのは全てが本にまつわる物語です。表題作の「さがしもの」は病床の祖母に1冊の本を探すよう頼まれた少女のお話。それぞれの主人公たちの恋愛や旅や暮らしの中で、ふと存在する本が人生を少し変えていくような作品が多いです。

どの作品も好きなのですが、この本を本当に好きになったきっかけは1つ目の「旅する本」でした。大学生の時に本を売った主人公が、数年後に海外でその本に再会するというお話です。その本は、彼女が出会う度に内容が変わっていっているように思えます。そう感じるのは、人生を過ごすうちに彼女の考え方や感じ方が変化しているからでした。

初めて読んだ高校生の時には、このお話の魅力をそれほどよくわかっていませんでした。ところが大学生になって何気なく読み返したとき、自分が「旅する本」主人公と同じような体験をしていることに気がつきました。高校生の時と同じ文章を読んでいるのに、ほんの数年の間に自分の受け止め方が変わり、前とは違う物語を読んでいるような気持ちになれたのです。海外で偶然再会するほどドラマティックではないけれど、こんなことってほんとにあるんだ!と感動しました。

そんな『さがしもの』との2度目の出会いから、「本を通して自分の変化を見つめる」という新たな楽しみができました。読書とはただ楽しいだけでなく、自分を見つめなおせる趣味でもあるのだと気づけたのです。

それから昔好きだった本を読み返してみることが多くなりました。もう知っている話なのに、昔とは全然違うところに共感したり、当時は思いもよらなかったような気付きを得たりするのです。人生が進むたびに、同じ本と何度でも出会うことができるという発見は素晴らしいものでした。この楽しみがあると思えば、歳を重ねるのも悪くないかもしれません。

何年か経ったらまた『さがしもの』と何度目かの出会いをしたい。そのとき物語がどう変化しているかが楽しみです。